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1.with Dam☆Nightの目的
「with Dam☆Night(ダム好学の夜)」は、2010年にダム工学会20周年記念事業として開始して以降、当学会と一般市民を結ぶ活性化の重要な役割を担っており、現在、全国各地区開催の当学会恒例の行事に発展しています。東京開催分は2021年から「Dam Odyssey(ダム探求の旅)」と題して各回テーマを設けたWeb方式に変更しており、今年で5回目になります。
2025年7月25日に開催の今回は、長い歴史を持ち、ダムの原点であるが、最近建設の少なくなったフィルダムに焦点を当てました。実に多くいるフィルダムファンからは待望のテーマと好意を持って迎えられ、「ダムを面白く学び、多くを知る」点で意義ある実施となりました。
2.2021~2024年の実施状況
コロナで2年の休止後の2021年は、再興を期して全面web放映の新シリーズに切り替え、以降は下記のように開催している。
(1) 2021年7月9日、テーマ「ダム再生工事」:前半にダム愛好家の夜話を2題、後半2hrにゼネコン4社の事例紹介と質疑を展開した。盛り沢山の話題に時間が不足するほどであった。
(2) 2022年7月22日、テーマ「ゲート」:前半にダム愛好家と専門家によるゲート夜話2題、後半2hrでゲートメーカー4社の事例紹介と質疑を展開した。ゲートについては知られていないことが多いため、大いに勉強になったという声が多かった。
(3) 2023年7月14日、テーマ「導流・減勢」:前半に水理設計に関する講義と後半にダム別の問答編とした。豪快な放流に魅せられてダムファンになった人が多いが、放流と減勢について理解してもらうために、用語集を用意するなど苦労して対応した。
(4) 2024年7月12日、「最強の治水ダム」をテーマに人気ダム愛好家二人の5コマ対決として、視聴者全体が楽しめる投票方式を採用した。洪水調節を容易に知るための格好の材料となったことから、この年から正式にダム工学会から動画配信を行った。
図 1に過去4年間の広報チラシおもて面を示すが、Web開催は何処にいる人でも気楽に参加できるので、ダム好学の主旨によくあっており、それなりにダム知識の啓発普及に寄与して来たという感はある。
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| 図 1 2021年~2024年の広報チラシおもて面 |
3.With Dam Night2025年の実施内容
今年のテーマとしたフィルダムは、ダムの原点であり、国内既設ダム数の大半を占めながら、最近はコンクリートダムや台形CSGダムに圧されて建設数が激減している。そこに敢えて技術上の危機感をもって、そもそもフィルダムとは何なのかという原点に遡って探求の旅に出航ということにした。ただし、長い歴史を持つ対象だけに骨の折れる航海である。
以下、作業経緯を記すが、まず開催日は、技術士2次試験の後が良いとの若い技術者たちの声を受けて、例年よりも少し遅い7月25日に設定したが、同時にフィルダムをテーマに決定した(今年3月)。その後、5月くらいから具体的準備に入り、プログラム構成を考えたが、この時にダムの原点を探るという意味において、始まりを古墳時代に遡る、近代ダムの原点である明治期のアースダムは必須、戦後の大型ロックフィルダムと最新フィルダム技術も外せない、フィルダムの事故も入れるべきということになり、自ずと広大な対象範囲となってしまった。これらをどう構成するのかが課題だが、夜雀さんと相談して図 2の右側にある夜話1から5を組んでみた。
普通はこれでプログラム構成の終了となるのだが、実行チームで話すうちにこれではフィルダム発展の歴史が理解できないということになり、時代を代表するフィルダムを並べての15のダム群を選び出し、投票でベスト3を決めることにした。図 2左側の15選は四苦八苦して案出したが、それぞれの時代性を感じていただければ幸いである。
その後、6月中旬にチラシを配り始めたが15選説明時間の不足、投票方法の熟知方法等の問題があり、開催直前までプログラム後半については何度も修正した。例えば、夜話4,5は夜話6の15選紹介の後にし、投票先を考える時間を兼ねることにした。
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| 図 2 with Dam Night 2025の事前配布チラシのおもて面・うら面 |
4.開会の挨拶 ダム工学会会長
最初にダム工学会会長(京都大学防災研究所特定教授、国際大ダム会議副総裁)からダム工学会における活性化、国際連携、情報発信等への取り組みとダム工学会の懇談会からの提言を紹介頂いた。また、今年の早い梅雨明け、少雨、異常高温とそれに伴う渇水の懸念について話して頂いた。
5.プログラム及びフィルダムの紹介
司会の磯部さんから番組構成を紹介頂くとともに、コメンテーターの三橋さんからフィルダムと他の型式のダムとの違い等の基礎知識を判りやすく説明頂いた(図 4)。
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| 図 4 オープニングのフィルダム基礎知識 |
6.夜話1「フィルダムの自由性:設計と施工」
筆者(川崎)からはフィルダムの種類が多岐にわたること、海外及び国内の技術史を述べたうえで、明治期アースダムから農業アースダムへの発展、戦後ロックフィルダム大型化への系譜について述べた。また、フィルダムの設計が多様性に富み、施工時でもより有利に変化しうることを示した。特に、筆者の携わった羽地ダムを事例にして、材料の使い方と工事費縮減の具体策、自然景観の保全、空気エネルギー利用等を示し、知恵や経験に基づく工夫を説いた。
7.夜話2「明治大正期の土堰堤」
夜雀講師からは、英国式アースダムとは何かを求める旅を面白おかしく話して頂いた。話は、津市片田ダムに始まり淡路島大城池ダム等を経て、パーマー、吉村長策、滝川釖二ら日本の近代アースダム創設期の技師を探るうちに、堤体断面では英国式の特徴はつかめないと判り、補償水路にまで言及したが国内では転流工や排砂用の意味合いが強く、洪水吐きの形状も吉村長策ら影響が強いことが判り、最後は舞鶴市岸谷ダムの格好よさに見入ることで終わった。 夜雀さんの混乱の旅に会場は大きな笑いに包まれた。
8.夜話3「フィルダムの洪水吐き比べ」
高名なダム愛好家である萩原講師からは、フィルダムの洪水吐きは面白いという感じで話して頂いた。最近は萩原さんの話を聞ける機会が少ないだけに、一昨年昨年に続いてその絶妙なウィットに富むトークを聞けるのはラッキーというべきである。
今回、フィルダム洪水吐きは面白いという直感のもとに、フィルダムのゲート式と自然調節式の違いや、様々な疑問を解く形で魅力あふれる全国フィルダム洪水吐きの事例を紹介頂いた。
9.夜話4「用強美フィルダム15選簡単紹介」
休息を10分ほど取り、19:20から後半が始まった。司会の磯部さんから、まず後半構成が紹介され、主催側で事前に選んでおいた用強美15選フィルダムが、夜雀、川崎、萩原の話者から完成が古い順に50分弱にわたって紹介された(図 8は放映画のさわり)。
最初の3つは夜雀さんからで、日本最古のため池(実際は蛙股池?)狭山池、弘法大師ほかによって何度も造り直された大規模アースダムである満濃池、吉村長策絡みの山の田・道原・内日の3姉妹が説明され、次に筆者から東京都の村山上・下、山口ダム、山王海ダムが説明され、再度夜雀さんから御母衣・九頭竜・手取川ダムの3兄弟が説明され、筆者から福智・羽地の姉妹が説明された。ここでダムは男か女かの議論があったが、海外のダムは国によって異なる。
その後、萩原さんから高瀬、寒河江、奈良俣の3つの説明があり、筆者から忠別ダム、夜雀さんから徳山ダム、筆者から小丸・京極の揚水上池(無理やりに見えるが実は建設会社が同じなので双子かも)、萩原さんから安威川ダムと南摩ダムの説明があり、15選の説明を予定通り20時10分に終えた。
➀狭山(さやま)池(いけ) (日本最古・再開発) |
②満濃(まんのう)池(いけ) (最も尊いダム) |
③山の田(やまのた)・道原(どうばる)・内日(うつい)ダム (長策3姉妹)↓山の田ダム |
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④村山上(むらやまかみ)・ 村山下(むらやましも)・山口(やまぐち)ダム (耐震3姉妹)↓山口ダム |
⑤山王海(さんのうかい)ダム (農業最大級) |
⑥御母衣(みぼろ)・ 九頭竜(くずりゅう)・手取川(てどりがわ)ダム (戦後3兄弟)↓九頭竜ダム |
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